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「行ってきます」
朝食のパンを口の中に含みながら、家の中にいる家族に言う。
しかしまだ生きていられるとは。
東アジア以外の土地は焼かれ、その時点で多くの国との貿易が無くなった。
それはつまり、頼れる国が限られているということ。
同時に、食糧などは殆ど自国で生産せねばならないということだ。
その原因となったのは、1年前謎のロボットにより半年ほどで東アジア以外が焼かれたことだ。
どの国も必死で抵抗するも、謎のロボットの力には及ばず消えてしまった。
このことから政府は火星移住計画を早くしろ、と五月蝿い。
どうせ、今何をどうしても変わらないのだが。
しかし謎なのはそのロボットだけではない。
なぜ東アジアだけ被害が何もないのか?
人一倍アニメやSF小説を見てきた俺としては、「東アジアには攻撃しないようプログラムされている」という結論が出た。
あくまで予想なので、その可能性は低いだろうが―
「みーなと君っ!」
まあ、一人の高校生ごときが考えたところで何にもならないだろう。
「みーなーとーくーん?」
そういえば今日は集めている単行本の発売日だったか。
学校の帰りにでも寄るとしよう。
「・・・・キスするよ?」
「おま、それはやめろぉっ!!」
さっきから無視していた奴から慌てて退く。
「なあ、そろそろそういうのやめてくれねえか?こっちも心臓がもたねえよ」
無邪気に笑いながら、彼女は自慢のロングの金髪を揺らす。
「でもさー、湊君もまんざらでもないじゃない感じじゃん?」
「るせっ!ったく、学校遅れるぞ」
下手にごまかし、先に進もうとする。
・・・・まあ、まんざらでもないのは確かだが。
彼女―秋雨紫音。
学校のマドンナ的存在だが、他の男には興味がなく、俺と特定の人物にしか接しないらしい。
それはそれでどうかと思うのだが・・・・。
「あー、またクマできてるよ。昨日の夜は何してたの?人に言えないようなコト?」
「読書だよ」
素っ気なく答える。
「エロ本?」
「だぁぁもううるせえな!小説だよ!!」
「対象年齢は?」
「15歳以上」
「えっちぃ小説?」
怒りがこみ上げて来る。だがこれもいつものことだ。
この程度で怒っていては身がもたない。
「・・・・・どうしてそう俺を変態君にしたいわけ?」
「面白いじゃない」
心の底から叫びたい。「お前はバカか」と。
しかし無邪気な笑顔を見せられてはそういうことも言えない。
大きなため息をつく。
「ため息なんてついてたら幸せ逃げちゃうよ?私との幸せがね・・・・?」
「だあああああああっ!!思うのは勝手だが言うな恥ずかしい!!」
「でも拒否しないんだよね」
「う・・・・そ、それより!今日はいい天気だな!」
「曇りだよ」
ぐっ。
くそ・・・下手に喋らない方がいいのか・・・・。
だがそれでは逆に先ほどのようにキスをされる1歩手前まで来てしまう。
いっそのことキスしてしまえばいいのか?
残念だができるほどの勇気は持ち合わせていない。
紫音に任せればいいと言うだろうが、残念ながら俺は自分からキスしたいという、
面倒くさいタイプなのだ。
・・・・する彼女もいないのだが。
「ねーぇ、付き合おうよぉ」
「やだ」
「なんでー?」
「身がもたないんだよ」
「大丈夫、優しくするから」
「何の話だよ」
「分かってるくせにぃ」
・・・・などと話していると、いつの間にか学校に着いている。
登校中の他の男子の視線が痛いが、俺のせいじゃない。そうに違いない。
というのもいつものことだ。
いつものように生徒玄関で靴を履き替え、
いつものように教室に入る。
いつものように―紫音が俺の左腕にしがみついたまま。
「離れろ紫音ッ!!」
「やだーぁ」
不幸なことに、紫音と同じクラスなのである。
「よう、湊に紫音ちゃん。今日もお熱いことで」
軽い口調で俺達の前に現れたのは、クラスメイトであり、親友の上野貴也。
親は政府の関係者らしく、こいつもそういう情報には強いらしい。
「あのな貴也。俺だって好きでこういうことしてるわけじゃねえんだよ」
「それはともかく、紫音ちゃんまた胸大きくなった?」
こう堂々とセクハラするこのアホはどうにかならないものか。
・・・いや、特筆すべきでないと思っていたのだが、
確かに紫音の胸は大きい方だ。いや、決してやましい気持ちはないのだが。
「あ、やっぱり分かる?流石、貴也君だね」
いや流石じゃねえよ。適当だろ。
「今適当とか思ったろ?ふふ、分かるものさ」
「そうそう、分かる人には分かるんだよ」
「変態パワーすげー、わーわー」
棒読みで言いながら腕に絡みついている紫音を払い、自分の席に向かう。
なぜ他の男はダメで俺と貴也はOKなのか・・・・。謎だ。
まじで変態パワーなのか?
「んだよー、ただの冗談じゃねーか」
「そうだよ、これで妬いてちゃ彼氏失格だよ」
「誰が彼氏だッ!!」
「お前」「湊君」
くそうぜぇ・・・・・・こいつら。
しかもまだ始業時間まで20分ある。もう少し遅く家を出ればよかった。
俺の席の前の席に、貴也が座る。
俺の前の席に貴也がいるのだから、たまったもんじゃない。
隙を見ては俺にちょっかいばかり掛けて来る。
「なーなー、ホントのとこどうなん?好きなんだろー?」
「ケッ、もう言うかよ」
昔、この質問に対して「ああ好きだよ」と答えた。
すると貴也は「おぉいやっぱりこいつ紫音ちゃんのこと好きなんだってよー!!」
と周りに言いふらし始めるのだ。
1分もたたないうちに鳩尾に膝蹴りを食らわせ黙らせたのだが。
「んだよー、いいじゃねえか」
「根に持つんだよ俺は。しかもその質問は172日目だ」
学校が始まって3カ月。貴也とは今年からの付き合いだが、1日1回必ずこの質問をする。
つまりうざったいのである。
「おお、よく覚えてんな。で、どうなん?」
頭にチョップを食らわせる。
これであと20分黙ってくれればいいのだが。
「隙ありだ湊ぉーっ!」
「ごぅっ」
後頭部にチョップを食らう。
自分の口から奇声が発せられたが、こんな芸当ができるのは紫音以外にいるわけがない。
「やめろよもう・・・・・」
「えへへー、隙だらけだったもので」
朝っぱらからストレスしか溜まらない・・・・もう何なんだ。
また大きなため息をついて、始業時間までの残り時間を確認する。
「っ!?」
時計を見て、ぎょっとした。
・・・・見間違いか。
今一瞬、時計が真っ赤になっていたように見えたのだが。
いや気のせいだろう。ちゃんと黒い時計に見えている。
きっと疲れているんだろう。こんな環境なら仕方ないだろう。
『7時51分、秋月湊の生存を確認。ティエの存在も感知せず。平和です』
『そろそろ、赤の時間が来る頃か』
『黒い雨からまだそう月日は過ぎていないだろうに』
2に続く―。